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19年度・20年度目次

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                            合唱ってすばらしい!
          〜響きの美しさを感じることができる子どもの育成〜

                                                名古屋市立辻小学校     中尾道孝

T はじめに
   私が受け持つ5年2組の子どもたちは,音楽の時間が好きで,とても元気よく歌うことができる。しかし,元気はあるが,曲の強弱がなかったり,地声が目立ったりして,全体的にきれいに合唱することができていない。
   また,前学年で習った二部合唱曲『ビリーブ』を聴いたときも,声の重なる部分が美しくなく合唱とは言い難かったのである。模唱によるいろいろな合唱曲を聴いていると,絶妙なハーモニーのところや盛り上がりのところで,鳥肌がたち,心と身体が打ち震えるような感覚に陥ることがある。また,聴くだけでなく,自らが声を出し,合唱曲のもつ響きの美しさを心と身体で感じることは,この上なくすばらしいことだと確信している。その感覚を子どもたちにも味わわせることで,美しい響きを感じようとする姿勢を育てたいと願い,本研究に取り組んだ。
                                                                                                                   
U 実践の方法

1 対象    5年2組  児童28名

2 実態調査
   育てたい子ども像は,響きの美しさを感じることができる子どもである。しかし,実態調査の結果から,次のような問題点が明らかになり,その原因を以下のように考えた。
(1)曲の強弱を意識していない。
  ・いろいろな曲を聴く機会が少なく,曲の雰囲気を感じることができていない。 
  ・音楽の美しさを感じる耳が十分に育っていない。
(2)声の重なりによる響きの美しさを感じていない。
  ・声を重ねるという経験が少ない。
  ・声の重なりによる響きの美しさを意識していない。
(3)合唱に美しさやまとまりがない。
  ・きれいな声を出す方法を知らない。
  ・お互いの声を聴き合っていない。

  (1)〜(3)までの問題を解決するために,以下のような活動場面を学習の中に取り入れ,実践を進めていくことにした。
     問題点(1)の解決に向けて,様々な合唱曲の鑑賞を通して,合唱の美しさを味わう。
     問題点(2)の解決に向けて,合奏の体験を通して,響きの美しさを「音」で感じる。
     問題点(3)の解決に向けて,合唱の体験を通して,響きの美しさを「声」で感じる。
  これらの活動を継続することにより,合唱曲の響きの美しさを感じることができる子どもの育成につながると考えた。

V 実践の内容
1 実践1  いろいろな合唱曲の鑑賞「響きの美しさを感じて!」
(1)ねらい
   いろいろな合唱曲の鑑賞を通して,合唱の美しさを味わい,いろいろな声の組み合わせによる合唱曲の日々気合いの美しさを感じる。
(2)手立ての工夫
   声の重なりを感じるように,各声部の旋律を書いた楽譜を鑑賞カードに挿入した。短い曲でありながら,2つの旋律が美しく流れる『花』,『箱根八里』,壮大な声の重なりによって声の厚みが感じられる『歓喜の歌』,中学校でも歌われる美しい合唱曲の『ビリーブ』,『この星に生まれて』,小学校の合唱団による『ぼくらの町は川っぷち』を鑑賞曲にした。そして,鑑賞カードに,率直な感想を書き込んだ後,それらを発表し合うことにした。

(3)実践の経過 … 略
(4)結果と考察
   毎時間,いろいろな合唱曲を聴くことで,今まであまり関心のなかった声の重なりに気を付けながら聴くようになってきた。その結果,いろいろな声の組み合わせによる合唱の日々気合いの美しさを感じ取ることができるようになってきた。また,合唱団の小学生が歌っている『ぼくらの町は川っぷち』を聴かせると,最初は驚いていたが,やがて自分たちもできるかもしれないという気持ちが芽生えてきた。それは,自分たちと同じ小学生が歌っていることで,身近に感じられたからだと考えられる。自らが声を出し合唱曲を歌いながら,声の重なりによる響きの美しさを感じることができる前段階として,実践2では,楽器を用いながら,「音」による響きの美しさを感じられるようにしていきたい。

2 実践2  合奏の体験  「音の重なりを感じて!」
(1)ねらい
   リコーダーの合奏やハンドベルの合奏などを体験することにより,響き合う音の美しさを感じ取る。
(2)手立ての工夫
   まず,響き合う音の美しさを直感的に感じられるように,安定した音程で表現できるリコーダーを用いたことである。5年生の子どもたちにとって,リコーダーは一番身近にあり,取りかかりやすい楽器であろうと考えた。また,リコーダーと異なった響きの美しさを味わわせたいと考え,ハンドベルを用いた。響きも演奏方法も異なる楽器の練習に取り組むことで,独特な響きの美しさを感じられると考えた。ハンドベルの練習方法の手立てとして,自分が担当する音の場所が一目で分かる「練習シート」を用いた。
(3)実践の経過
   5月に,『こきょうの人々』をリコーダー四重奏で演奏することを試み,リコーダーが重なり合う響きのおもしろさや美しさを感じ取り,イメージを広げて表現を工夫するようにした。『こきょうの人々』の主旋律と三和音(持続音なので小節の間は,同じ音を伸ばすだけである)の計四つのパートから,演奏したいパートを選び,班ごとに練習してから,発表する。その後,感想を述べるようにした。聴いていた子どもの感想では,「それぞれがちがった音を吹いているのにきれい」といった声や,「ドミソやドファラの和音は,聴いていて気持ちがいい。」といった感想がみられた

  6月には,アメリカ民謡の「こげよマイケル」を,ハンドベルで演奏することに挑戦した。楽譜の中から,自分で演奏したい音を一つ決め,練習シートを用いて,自分の選んだ音をすべて丸で囲んでいくことを行った。そして,下の五線譜に,鳴らすタイミングを記しておく。この活動を行うことで,自分のハンドベルを鳴らすタイミングをつかむことができた。鳴らすタイミングを記すことができなかった子どもは,曲全体を聴くことで,鳴らすタイミングを把握していた。
  7月には,『この星に生まれて』の響きの美しさを感じ取るために,再びリコーダーによる合奏に取り組んだ。リコーダーの安定した音程により,各声部による響きの美しさを感じられると考えたからである。
  まず,ソプラノ,メゾソプラノ,アルトの三部に分かれてリコーダーの反復練習を行った。そして,リコーダー演奏の得意な子どもを各パートから1名選んで,3名による模範演奏を全員で聴くことを行った。その後,次々と3名による合奏チームを増やしていき,それぞれの演奏を聴き合った。「少人数で演奏すると,音の重なりがはっきりと分かった」という子どもたちの声が多かった。朝の会などでは,スキルアップの時間をとり,全員で合奏の練習を続けた

(4)結果と考察
 『こきょうの人々』のリコーダーの合奏に取り組み始めたころは,自信のある子どもは主旋律を,そうでない子どもは和音の一部を選ぶ傾向にあった。しかし,練習を重ねるにつれて,パートを交換して演奏をしたり,和音パートの音量を絞ってバランスを整えたりする班が見受けられるようになった。このような結果になったのは,子どもたち一人ひとりが,響きの美しさを,感じとることができるようになってきたからだと考えられる。ハンドベルの合奏においても,最初は,自分の出す音で精一杯の子どもたちが,周りの音を聴く余裕が生まれ,全体の和音の響きの美しさを感じとることができるようになった。また,自分が鳴らすタイミングを把握するために,練習シートが役立った。正式な音符が書けなかった子どもも,自分なりに音を鳴らすタイミングを記述していた。ハンドベルの音色自体が,とても好評であり,「すごくきれいだった。」「みんなで演奏したことが楽しかった。」という感想が多かった。以上の結果から,ハンドベルを用いたことは,非常に有効であったと考えられる。
  さらに,ハンドベルやリコーダー以外にも,同じような音質の楽器を用いて,様々な音色を感じとりながら,合奏に取り組めるとよいと感じた。響きの美しさを「音」で感じることはできるようになってきた。次は自らの「声」による響きの美しさを感じさせたい。そのために,これまでの実践を生かしながら,合唱の体験をさせていきたい。

3 実践3 合唱の体験 「声の重なりを感じて!」
(1)ねらい
   実践2では,「音」による響きの美しさを感じることができるようになってきた。さらにそこから,自らの「声」
による響きの美しさを感じることができるようになる。
(2)手立ての工夫
   声の質を高める腹式呼吸を意識させるために,あくびの動作を取り入れる。また,練習方法として,実践2と同様に,少人数による練習を繰り返し行う
(3)実践の経過
  最初に取り組んだ合唱曲は,実践2のリコーダー合奏で練習した『この星に生まれて』である。まず,腹式呼吸を体験し,腹式呼吸を意識して歌うことから始めた。「みんなの歌声をもっと良くするよ。息を全部はいてみよう。苦しくなったら,力を抜いてみよう。」と声をかけた。すると,「力をぬいたら,たくさん空気を吸えたよ。」「お腹がすごくふくらんだよ。」といった感想があがった。次に,「あくびをしながら歌ってみよう。あくびをすると,のどが開いて口も大きく開けられるから,歌う声が出るんだよ。」と声をかけた。すると「きれいな声が出たから,びっくりした。」「これが歌声なのか。」「むずかしいよ。」といった感想があがった。このあくびの動作は,歌を歌うときの準備として,毎回取り入れている。次に,歌の練習方法を子どもたちと一緒に考えた。 以下のような意見が出された。実践2での方法論がたいへん参考になっていることが分かる。
     ・パートごとに分かれて音程取りをする。
     ・少人数で同じパートを練習する。
     ・少人数で異なるパートを練習する。

     ・異なるパートで向かい合って歌う。
     ・友達の歌声を聴く。
     ・強弱を意識して歌う。
     ・歌詞を理解して,思いを込めて歌う。

  子どもの感想として,「自分のパートがどうしても歌えない」「5〜6人だとみんなの良い所や直す所がよく分かる」「声が重なっていて,きれい」「盛り上がるところは,自然に強くなる」といった声が多かった。
 ある程度,音程がとれてきたら,ソプラノ,メゾソプラノ,アルトの合唱の隊形になって歌う練習をした。しかし,どうしてもソプラノの旋律につられてしまう傾向があり,メゾソプラノとアルトの安定感がみられなかった。
 実践2のリコーダー合奏では,楽器演奏の特性上,他のパートに音がつられることはなかったが,声になると,上手に合唱をすることができなかったのである。実践3では,合唱の体験として,『この星に生まれて』に引き続き,『ビリーブ』の三部合唱にも取り組む予定であった。しかし,『この星に生まれて』の完成度を高めるために,まずは各声部の,特にソプラノパート以外の正確な音程を身に付けることが,先決であると考えるようになった。最終的には,ソプラノパートは,正確な音程でしっかりと歌うことができるようになってきた。

(4)結果と考察
  
子どもたちは,腹式呼吸によって,お腹に息を入れる感覚が分かってきた。また,あくびをしながら,のどを開けて歌うと,無理のない声で歌うことができ,歌う声に変わったと実感することができるようになってきた。
 このような結果になったのは,あくびの動作が非常に身近な動作であり,子どもたちに受け入れやすかったからだと考えられる。『この星に生まれて』の練習方法では,少人数で歌う方法が,お互いのよい所や直す所が明確になったため,有効であった。また,音楽の得意な子どもは,すぐに旋律を覚え,少人数による美しい響きで合唱をすることができたのである。
  しかし,全体で合唱したときには,そうはいかなかった。腹式呼吸による発声が十分にできていなかったことと,正確な音程を身に付けていなかったため,きちんとしたハーモニーで歌うことができず,響きの美しさを感じるまでに至らなかった。
  実践2までは,ほぼ全員が響きの美しさを感じることができるようになった。しかし,それを自らの声で表現するとなると,つまずきがみられた。正確な音程や発声方法,歌声のありかたなど,様々な課題が残る結果となった。このような結果になったのは,楽譜を十分に読めていないことや,試聴したときにソプラノパートの旋律だけが印象に残っていたことが考えられた。また,メゾソプラノパートやアルトパートの旋律がよく聴き取れていないことが考えられた。
  全体の響きの美しさを感じるには,まずは,正確な音程を身に付けることと考えた。全員が正確な音程を身に付けることができるような実践が,新たに必要になった。そこで,その手立てとして実践4を考えた。

4 実践4 正確な音程を身に付ける 「自分のパートを正確に歌うぞ!」
(1)ねらい
   自分のパート,特にソプラノパートにつられないように,メゾソプラノパートとアルトパートの音程を正確に身に付ける。
(2)手立ての工夫
  各声部の旋律と伴奏を,コンピュータで作成したものを,必要に応じて再生させる。その際,チャンネル1にソプラノ,チャンネル2にメゾソプラノ,チャンネル3にアルト,チャンネル4に伴奏をプログラミングしておく。メゾソプラノの練習のときには,チャンネル2だけを再生して,鳴っている音をじっくり聴いて,覚える。覚えてきたら,チャンネル1とチャンネル2を同時に流して,ソプラノとの音の重なりを感じながら,メゾソプラノの旋律をしっかり歌う。チャンネル3のアルトと組み合わせたり,各声部すべてを同時に流したり,伴奏だけを流したり,各声部に伴奏を加えたりして,練習を繰り返す。それにより,メゾソプラノパートの音程を正確に身に付けることができると考えた


チャンネルごとに各声部が割り当てられている画像
(ここではメゾソプラノパートが選択されており,このパートのみを再生して音程取りの練習を行うことができる)


(3)実践の経過
   一番不安定なパートはメゾソプラノであったので,メゾソプラノの音程を正確に身に付けることから始めた。子どもたちは,スピーカーから流れる電子音にとまどいを見せたが,「この音程を真似して,同じ声の高さにするんだ」という声かけをすると,メゾソプラノの子どもたちは,思い思いに練習を始めた。小さく口ずさんでいた声が,少しずつ大きくなっていった。
  ソプラノの音程と合わせてみても,段々と自分のパートを歌えるようになっていった。また,アルトパートも同様に,少しずつ自分のパートの音程をとらえることができるようになっていった。
(4)結果と考察
  
メゾソプラノパートも,アルトパートも,段々と正確な音程がとれるようになってきた。このような結果になったのは,自分のパートを集中して練習したり,他のパートを聴きながら,自分の音程を歌ったりする練習ができたからだと考えられる。また,チャンネルの組み合わせをすべて録音したCDを数枚作成して,各パートに渡すことで,それぞれが時間を有効に使って,練習できるようになったからだと考えられる。教師一人の演奏なら,このようにはいかなかっただろう。正確な音程を身に付ける手立てとして,予想以上に効果があった。また,意外な成果として,他のパートとは異なる歌い出しのところが,はっきりと分かったという声が多かったことである。このような結果になったのは,各声部を異なる楽器の音でプログラミングしたため,子どもたちが,その音色の違いから,各声部の歌い出しのところを明確に判断することができたからだと考えられる。実践4を行う前と後では,自分のパートにおける正確な音程の身に付き方が,明らかに違っていた。

W おわりに
  自らが声を出し,合唱曲のもつ響きの美しさを,心と身体で感じることを,子どもたちに味わわせたい一心で,実践を続けてきた。いろいろな合唱曲を聴いたり,楽器を用いて音の重なりから生まれる響きを感じたり,三部合唱曲に取り組んだりして,子どもたちは,合唱のすばらしさ,とりわけ響きの美しさを心と身体で感じることができた。

  しかし,実践2を生かして実践3に取り組んだところで,つまずきが生じた。実践3で生じた課題を克服するために,新たに正確な音程を身に付ける実践4を行った。実践4では,コンピュータを用いて,各声部専用の教材を制作することになったが,これが正確な音程を身に付けるための手立てとして,たいへん有効であったと振り返る。また,「楽器をみんなで演奏したことが,楽しかった。」「合唱って,音が重なり合っていて,響きがきれいだから,歌っていてとても楽しかった。」という子どもたちの感想が多かったことが,何よりもうれしかった。
  現在の実態として,響きの美しさを感じるところは育ってきた。しかし,腹式呼吸による発声や,頭声発声など,響きの美しさを表現する技能面が不十分である。今後は,不十分なところに目を向け,それらを解決するために,声の質を高める手立てを工夫することで,研究テーマにせまっていきたい。また,学年末の「6年生を送る会」や「卒業式」で歌う合唱曲では,さらに響きの美しさを実感できるように,そして表現できるように,練習を積み重ね,合唱の質を向上させていきたい。