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19年度・20年度目次

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                      きれいな歌から伝わる歌へ
          〜曲想に合った歌い方をする子どもの姿をめざして〜
                         名古屋市立汐路小学校    野口 明日香
T はじめに
「えっ!初めての高学年の担任!クラスの子たちは,どんな歌声なのかなぁ。響きのある声で歌うのかなぁ」
 4月。私は5年生の担任をすることとなった。高学年ということで,表現することを恥ずかしいと思い始め,あまり歌を歌わないのかなという不安な思いがあった。しかし,クラスの子どもたちがどのような音楽が好きなのか,どのような歌声なのか,とても楽しみだった。
 最初の音楽の授業。子どもたちに,どんな曲が歌いたいかと聞くと,「『トゥモロー』が歌いたい」という声が多かったので,トゥモローを歌ってもらうことにした。
 子どもたちの歌声を聴いて,とても驚いた。なぜなら,地声で歌っている子どもはほとんどおらず,大部分の子どもが,響きのある声で歌っていたからだ。
 しかし,響きのある声で歌っているものの,歌詞から気持ちや様子を感じ取り,それが伝わるように歌っているわけではない。また,口の開け方や,声の出し方に気を付けて歌っているものの,表情が曲の感じに合っていない子どもの姿が見られた。
 そこで,クラス35人の子どもに,「歌を歌うときにはどのようなことを考えているのか」を聞いてみることにした。
  技能的なこと・・・・・・・24人
  (上手に,きれいな声でなど)
  気持ちが伝わるように・・・ 8人
  楽しんで・・・・・・・・・ 3人

 この結果から,普段子どもは,響きのある声できれいに歌おうというような,技能的なことを意識して歌っていることがわかった。
 次に,子どもたちにテンポの速い元気な曲『ゆかいに歩けば』を歌わせたが,『トゥモロー』を歌ったときと表情が変わらなかった。そこで,[これはどんな曲かな?」と,子どもに聞いた。すると,「元気な曲」「明るい曲」という答えが返ってきた。その後すぐに歌ってもらうと,笑顔で歌う子どもや,体が動き出す子どもの姿が見られた。 
これらの結果を通して,子どもたちは,曲想を感じ取ることはできているが,それを意識して歌っていないということがわかった。
 歌を歌うときに,歌詞の意味や情景を感じ取ることで,歌詞に気持ちを込めて歌うことができるようになり,相手に思いが伝わる歌を歌うことができるようになると考えた。
 また,子ども自身が曲から感じ取ったイメージや歌詞の意味を基に,曲想に合う表現を工夫することができるようにしていきたい。そして,歌を歌うときには相手にどのような気持ちを伝えるのかということを,常に考え,伝える相手を意識することによって,歌を通して自分の思いを心から伝えることができる子どもを育てていきたい。

V 研究内容
授業実践1〜曲の特徴を感じ取ろう〜

<ねらい>
 ○ 様々な曲の曲想を感じ取る。
 ○ 曲に合った自分なりの表現方法を考えることができるようにする。

<実践方法>
 様々な曲の歌詞を読み味わわせたり,範奏や範唱をじっくり聴かせたりする。
 また,歌詞の内容から伝わってくる気持ちや思い浮かぶ情景を考えさせ,強弱記号や速度記号などを消した楽譜にどのように表現するのかを記述できるようにする。

<子どもの様子>
 『心から心へ』の範唱を聴く前に,歌詞をじっくり読ませ,どんな曲だと思うかをイメージさせた。子どもたちに,「知っている曲の中だと,どの曲に似ていると思う」と聞いた。すると,「トゥモローやビリーブのような曲だと思う」と答えた子どもが多かった。また,「だれに向けて歌っている曲だと思う」と聞くと,「友達に向けて歌っている曲だと思うよ」という声が聞こえてきた。
 範唱を聴いた後に,子どもにどのような曲だったか聞いた。子どもたちは,「想像していたとおりの曲だったよ」「とても優しい声で,友達を励ましている曲だと思う」などと言っていた。
 『青い空に絵をかこう』の歌詞を読み,感じ取った曲のイメージを記述できるようにした。すると,「歌詞に出てくる『ぼくらの世界』=『ぼくらの夢の世界』だと思うから,夢に向かって出発する曲だと思った」「『えいや〜!』とかけ声が入っているから,楽しくて明るい曲だと思う」という記述が見られた。
 範唱を聴いた後には,「テンポが速く,探険に行っているイメージがわいてきた」「ウキウキしているような曲で,明日が楽しみでうれしいという感じがした」という記述が見られた。
 『ビリーブ』の歌詞を読み,歌詞から読み取れる情景や,気持ちを記述していくようにする。すると,「いつでもそばにいるよという気持ちを込めて歌う歌だと思う」「大切な友達に声をかけているように,優しく歌う」以外の記述に,「優しさを伝えるために,優しい笑顔で歌う」「『世界中の〜』は山をつけて歌っていき,『今未来の』からは,この曲の山になるから,盛り上げて歌う」などの,歌い方の工夫を記述する子どもが見られるようになっ
てきた。
 様々な曲想の歌を聴いたり,歌詞をじっくり読んだりすることで,曲の特徴を感じ取り,どのように表現するとよいのかを考えて,記述することができるようになっていたことがわかる。
<成果と課題>
○ 歌詞を読み味わわせ,感じたことを記述 させたり,範奏や範唱をじっくり聴かせた りすることで、子どもたちの曲に対するイメージが深まり,曲の特徴を感じ取ることができた。
○ 歌詞の内容から伝わってくる気持ちを考えさせ,強弱記号などを消した楽譜にどのように歌うのかを記述させたことで,一人 ひとりが自分なりの表現方法を考えることができるようになった。
● 曲の特徴をつかんだり,表現方法を考え たりすることはできるようになったが,歌っているときの様子からは,表現すること には結びつかなかった。考えた曲想を表現に生かすことができるように,実際に声に出して歌い,表現できているかどうかを聴き合うことが必要だと考えた。

授業実践2〜表現を追求しよう〜

<ねらい>
 ペアやグループ(6人),全体と意見交換をし,曲に合ったよりよい表現方法を考え,実際に歌って表現させ,相手に思いが伝わる表現方法を工夫させる。

<実践方法>
@ 自分なりに考えた表現を記述した楽譜を基に,ペアで意見交換をする。
A グループ(6人)を作り,その中でさらに話し合い,実際に歌って表現する。
B グループで話し合ったことを基に,全体で話し合い,よりよい表現方法を追求する。

<子どもの様子>
@ 一人ひとりが必ず自分の考えを言えるように,話し合いの方法を決めることにした。 子どもたちに,みんなが意見を言えるようにするには,どのようにするとよいか聞いた。すると子どもたちは,次のようなルールを決めた。自分の考えを述べた後に「あなたはどのように考えましたか?」と聞くことだった。 
  その結果,「私は,ここは話しかけるように歌ったらいいと思うんだけど,どうかな?」「私も同じ考えなんだけど,友達に話しかけるようにイメージするともっとよくなると思うな」というように,お互いに自分の意見を伝え,よりよい表現方法になるように話し合いをしていた。
A ペアで話し合った表現方法を基に,3つのペアが集まり,6人グループで活動した。子どもたちの様子を見ていると,同じ子どもばかりが発表していた。そこで,各グループに司会者を一人決め,活動させた。すると,「ここはどうやって歌ったらいいと思うか発表してください」と司会者の子どもが言い,「ここは,曲の山になるから,だんだん大きく歌うといいと思う」「僕は,今の意見に付け足しで,優しい声で笑顔を意識して歌うともっとよくなるんじゃないかな」などと,お互いに発表していくことができるようになり,それぞれのグループの意見を取り入れて,よりよい方法を考えている子どもの姿が見られた。
B 「今までグループで考えてきたことを,一つのものにまとめよう」と投げかけ,拡大した楽譜と,3色の付せん紙を子どもたちに渡した。それぞれのグループの考えを付せん紙に書いて楽譜にはっていくようにした。また,「考えた歌い方を,実際に声に出して行うようにしましょう」と声かけをした。すると,「まずは,ピンク色の付せん紙のグループから歌ってみて」と,それぞれに考えた表現方法で実際に歌うことができた。

<成果と課題>
○ ペアやグループ(6人),全体と意見交換をし,曲に合った表現方法を考え,工夫させたことで,一人で考えている時よりもよりよい表現方法を考えることができた。
○ 実際に声に出して考えた表現方法を試すことで,自分たちが考えた表現方法で思いが相手に伝わるものなのかどうかがわかり相手に思いが伝わる表現方法を追求していくことができた。
● 考えた表現方法ができているのかどうかをしっかりと評価する場を設けなかったので,他の子がアドバイスをしても納得できない子どもがいた。自己評価や相互評価を 行う場を設ける必要があると感じた。

授業実践3〜伝わる歌を歌おう〜
<ねらい>
 ビデオ鑑賞をして自己評価したり相互評価したりすることで,相手に思いが伝わる歌を歌うことができるようにする。

<実践方法>
@ 自己評価・相互評価
 授業で歌っている子どもたちの姿をビデオで撮り,それを見せて自己評価をする。
 クラスを2つのグループに分け,相互鑑賞を行い,気持ちが伝わってきたか,どのようにすると気持ちが伝わるようになるのかを考え,相手に伝える。
A 歌を贈る
 歌を贈る相手を決め,曲選びから子どもたちに行わせ,贈った相手から感想を聞く。
B 学芸会で観客に思いを伝えよう劇の中に出てくる歌をどのような気持ちで観客に伝えたいのか,会場の雰囲気をどのように作るのかを考える。

<子どもたちの様子>
@ 自己評価・相互評価
 初めて自分が歌っている姿を見た子どもたちからは,「笑顔で歌っているつもりだったのに」「盛り上げて歌っていたつもりなのに,あまり盛り上がっているように聴こえないな」などの感想が聞かれた。自分たちが思っているほど聴いている人に気持ちが伝わる歌になっていないということに気付いた子どもが多かった。その後,初めて撮ったビデオと,実践の終わりの方に撮ったビデオを見比べたときに,「初めの時より,笑顔で歌っている」「A君の口が大きく開くようになったね」「B君の表情がすごくよくなったね」などと,自分のよくなったところだけではなく,友達のよいところまで発見することができるようになり,お互いに認め合い,高め合うことができるようになったのではないかと感じた。
 相互鑑賞を行った後,「お互いに感想やアドバイスを伝えよう」と,子どもに声掛けをした。すると,初めは「顔が暗い」「もっと優しい声で歌った方がいい」など,批判的な意見が多かった。しかし,繰り返し相互鑑賞と相互評価を行っていくうちに,「曲の山はついていたけれど,もう少しみんな笑顔で歌うともっとよくなると思う」や「笑顔の人もいるけれど,まだ笑顔じゃない人がいるから,みんながもっと意識するといいと思うよ」など,互いを認めながら,よりよい方法を相手に伝える姿が見られるようになってきた。
A 歌を贈る
 「授業参観で保護者の人に歌を贈ろう」と子どもたちに声を掛けた。子どもたちは「いいね」「やろうよ」などと,とても張り切っている様子だった。また,「2年生にもみんなの歌を贈ろう」と言い,「どんな曲がいいか考えてきてね」と,子どもたちに曲選びからさせることにした。
 子どもたちが保護者に贈ろうと決めた曲は「君をのせて」と「少年時代」だった。なぜその2つの曲に決めたのかと聞くと,「『少年時代』は,絶対に知っている曲だし,懐かしい感じがするから」「『君をのせて』は,歌詞の中に父さん・母さんなどの言葉が入っているからぴったりだと思ったから」など,贈る相手のことを考えての選曲をしていた。
 2年生の子たちに贈る曲は『世界に一つだけの花』『世界が一つになるまで』に決まった。なぜ選んだのかを聞くと,「2年生の子どもたちでも知っている曲を歌ってあげたい」という声が上がった。
 曲が決まったところで,2年生に贈る曲の歌い方を考えるグループと保護者に贈る曲の歌い方を考えるグループに分かれて表現方法を考えるようにした。
 『君をのせて』『少年時代』では,「保護者への感謝の気持ちを込めて歌おう」ということを一番伝えたい気持ちとして決め,強弱や表情などを考えていった。
 『世界に一つだけの花』では,「他の人と違っていいんだよ」「自分の得意なことをがんばろう」という気持ちを込めて歌うということを決めた。『世界が一つになるまで』では,「友達を大切にということを伝えよう」と決め,表現方法を考えていった。その中で,もっと気持ちが伝わるように,歌詞の内容を2年生にもわかる言葉にしたいから,歌詞を替えたい」という意見が出た。相手を決め,伝えたい気持ちを決めたことで,よりよい表現方法を考えていく子どもの姿が見られた。
 2年生の子たちに向けて歌っている時の子どもの表情は,授業で歌っているときよりも笑顔で,自然に体が動いたり,隣の子と肩を組んで歌ったりと,楽しそうだった。2年生の子に感想を聞くと,「気持ちがこもっているから,とても優しい歌でした」「とても、楽しい気分になったよ」というような声が聞かれた。また,保護者に歌を歌った後にも,感想を聞いた。「とってもすばらしい合唱で,感動しました」という感想をもらった。それを聞いた子どもたちは,「気持ちが伝わったので,うれしかった」「楽しんでもらえてよかった」と,とても喜んでいた。
B 学芸会で観客の心を動かそう
 劇の中で『風になりたい』や『思い出がいっぱい』など,様々な曲想の歌を歌った。『風になりたい』を歌う場面は,喜びを表す場面となっている。子どもたちに,「どのように歌うといいかな?」と尋ねると, 子どもたちは,「笑顔で歌う」「元気よく歌う」「体を動かして喜びを表現する」という意見が上がった。
 そこで,実際に喜びを表すことができているかを,お互いに確認しながら歌った。『思い出がいっぱい』を歌うところは,観客に向けて歌う歌になっている。どのように歌うのか子どもに聞くと,「優しい声で」「さびの部分を盛り上げて」「笑顔なんだけど,微笑んでいるように歌う」というような意見が出た。歌詞を読み,範唱から曲のイメージを広げることにより,どのように表現するとよいか考えをもつことができるよう になった。そして,劇の中での演出も自分たちで工夫して表現することができた。

<成果と課題>
○ ビデオ鑑賞をして自己評価したり相互評価したりすることで,どのようにすると思いがより伝わる歌になるかということを考えることができ,表現に生かすことができた。
○ 伝える相手をしっかりと決めて,相手に喜んでもらえるような曲を選び,その曲の曲想を考えることで,より気持ちを込めて歌うことができた。
○ 自分たちで劇の内容を考え,それに合わせた曲を選び,作り上げていく中でみんなで心を一つにして歌うことの大切さに気付くことができた。

W まとめ
 子どもたちに,「歌うときにはどのようなことを考えて歌いますか」と4月と同じことを聞いたところ,次のような結果になった。
  技能的なこと・・・・・・・1人
  (上手に,きれいな声でなど)
  気持ちが伝わるように・・・ 34人
  楽しんで・・・・・・・・・ 0人

 4月と比べると,気持ちが伝わるようにということを意識して歌っている子どもが増えたことがわかる。
 このような結果から,4月のころは,技能的なことばかりを気にして歌っていた子どもたちが,曲想を感じ取り,歌を通して気持ちを伝えようと意識して歌うようになってきたことがわかった。
 範唱や範奏を聴いたり,歌詞を読み味わったりした後,楽譜に強弱記号や表現の仕方などを記述したことによって,一人ひとりが自分なりの表現方法を考えることができるようになった。また,歌っているとき,以前と比べて歌詞の内容や曲想に合う表情をすることができるようになってきた。
 ペア・グループ・全体と活動形態を変えたり,ビデオを活用して自己評価や相互評価をさせたりしたことによって,様々な表現方法を知ることができ,よりよい表現方法を追求するとともに,互いを認める心を育てることができた。
 様々な曲にあった表現方法を自分で考え,友達と話し合いながら曲を作り上げていくことで,一人ひとりの表現の幅が広がったように感じた。また,友達とのコミュニケーションを図ることが増え,互いに認め合うことができるようになったと感じる。
 3学期には,卒業式がある。そこでも,卒業式に向けて気持ちがこもった歌を歌うことができるようにしていきたいと思う。

X おわりに
 「この曲すごくいい曲だよ!」と,子どもが目を輝かせて言いにきた。そして,私の近くに来て,歌ってくれた。聴いていると,とてもいい歌詞だった。そこで,「どうしてその曲が好きなの?」と聞くと,「この曲の歌詞がすごくいいなって思って」と,答えた。周りにいた子どもたちも,「確かにいいよね」と言っていた。このような子どもの言葉を聞いた時に,子どもたちが普段身の回りから聴こえてくる音楽からも,歌詞をじっくりと聴いているということがわかり,とてもうれしかった。
 また,気持ちが伝わるようにという活動を行ってきた感想を聞くと,「みんなで,気持ちを一つにして歌うことは難しいが,とても大切なことだと思う」と,いうような声が多く上がった。
 これまで,ペアやグループで話し合い,様々な表現方法を考え,相手に伝わる表現方法で歌を歌うということを目標に実践に取り組んできた。一つの曲を作り上げていくことで,クラス全員の心も一つにすることができ,曲想に合った歌い方が相手の心に届くことの喜びを味わわせることができた。
 12月のある日。「私は,〜がしたい」と,人前で自分の意見を言うことが苦手なAちゃんの声が聞こえた。これは,4月から相手に自分の思いを伝えるという活動を行ってきた成果である。これからも,曲想に合う表現をすることは,相手の心に伝わる歌になるということを実感できる学習を進めていきたい。