積極的に音楽に関わり,自分たちの歌声を深めよう
                                               (中学校1年生)
                                                      名古屋市立平田中学校      細 井 美 緒

1 研究のねらい
   多くの友人と仲よく合唱することも素敵なことであるが,音楽の表面的な楽しさを味わったに過ぎない。私が考える合唱本来の楽しさとは,歌い手の気持ちを歌声を通して聴衆に伝えることである。そのためには,歌詞や音楽から作曲家の想いを読み取り,歌い手としてどのようなことを聴き手に伝えるか考え,表現していかなければならない。そのための一歩として,合唱を創り挙げていく過程の中で自分たちの歌声はどのようなものなのかを客観的にとらえ,自分たちの歌声を深めていくことが大切であると考える。
   本校の一年生は,男女ともに大きな声で元気よく楽しそうに歌い,女子の中には声は小さいがきれいな音色で歌う生徒もいて,積極的に歌っている。合唱本来の楽しさを追求していくならば,生徒自身が自分たちの歌声について積極的に意見を述べ合いながら練習を進めていくことが望ましいと考える。しかし,合唱を作り上げる過程では,教師からのアドバイスに頼って,取り組むことが多く,受け身の合唱活動になってしまっている。また,歌い終わった後,生徒に「今の演奏は,前と比べて強弱に気を付けて歌えていましたか?」と聞いても,自分たちの演奏がどうなっているのかを判断させ,パートリーダーを中心に改善策を立てたり,練習を進めさせたりして積極的に音楽と関わらせることにした。

2 研究の内容



3 研究の経過

【実践1  姿勢・発声・発音を身に付けよう!】

(1) 実践のねらい
    合唱するときにふさわしい姿勢・発声・発音を知り,日ごろから実践しようとすることができるようにする。

(2) 実践の経過

チェックカード


 @考えよう!
    合唱するときにふさわしい姿勢や発声の12項目をチェックカードを使って,4段階に分けて学習をした。順を追って学習したことで「いきなり全部は気を付けられないけど,少しずつだからできるようになったよ」という声が聞かれた。発音の仕方は『子音をはっきり言うこと』『濁音を鼻濁音にすること』の2つに重点を置いて学習した。
 A やってみよう!
    互いに向き合いながら発声練習をし,互いの姿勢や歌声の状態をチェックし合った。最初は見られることが恥ずかしい様子だったが徐々に慣れ,姿勢や声の出し方に気をつけて発声練習をすることができた。
    また,発音の仕方は,歌詞カードを読みながら子音を強調して発音する練習や濁音を鼻にかける練習をした。生徒たちは,この練習に関心をもち,とても楽しそうに取り組み,子音をしっかり発音したり,鼻濁音をきちんと発音したりして歌詞を読むことができた。

歌詞カード


 B 振り返ろう!
    互いにチェックカードを交換し,◎,○,△で記録し合った。チェックカードに記録することで,自分ではしっかりと歌う姿勢ができているつもりでも,友だちから見るとできていないと評価されることに気付くことができた。
    発音の仕方は,歌声を録音して子音と鼻濁音ができているか確認した。「歌になるとなかなかできないよ」「一瞬に過ぎちゃうから,やり忘れちゃった」など,歌詞を読む時には子音も鼻濁音もしっかり発音できていたが,歌声になるとなかなかできていない部分もあった。

(3) 結果と考察
    実践を行う前は,歌う時に机や壁にもたれかかったり,両足に重心をかけて立つことができなかったりする生徒がいた。しかし,ペア学習によって,自分ではできていると思っていた部分について,友だちから十分でないとチェックされたことによって,できていない部分に気付き,表現する上で正しい姿勢や発声を身に付けようと努力するきっかけとなった。そして,友達と拓人しながら発声練習をしていくうちに,チェックカードの姿勢に関する項目の『足は肩幅に開く』『手は体の横』『背筋を伸ばす』『胸を 高く,広げる』『あごを軽くひく』『肩の力は抜く』『お目々パッチリ』を,多くの生徒が身に付けることができた。
    しかし,姿勢に関する項目の『お尻を引き締める』『口を縦に開ける』や発声に関する項目の『声を遠くまで飛ばす』『あくびの喉』『きれいな響き』,そして発音に対しては,まだ十分とは言えない。
    実践2では,実践1で学習したことを生かして,パートリーダーを中心にした合唱活動に積極的に取り組み,自分たちの歌声を深め,歌声による音楽表現の追究に取り組ませたいと考えた。


【実践2  自分たちの歌声を客観的にとらえ音楽表現を追究しよう!】

(1) 実践のねらい
    自分たちの歌声を振り返り,歌声による音楽表現を深めようとすることができるようにする。

(2) 実践の経過
 @考えよう!
    自分たちの録音した合唱を聴き,姿勢・声の音色・ハーモニー・表現(強弱や言葉の歌い方など)の4項目について,『良いと思うところ』『もう少し工夫すると良いところ』をプリントに記入した。4項目をバランス良く,『良いと思うところ』『もう少し工夫すると良いところ』を一人一人が気付き感じ取ることができた。

生徒が書いたプリントの記述内容
姿勢 ☆女子の姿勢がいい
☆口が大きく開いている人がけっこういた
☆代替の人がふらふらしなかった
★まだくぎの開きが小さい人もいた
声の音色 ☆アルトとソプラノだけのところがきれい
☆腹式呼吸の仕方ができている人が3人いた
★「Let' search for Tomorrow」のソプラノの音程が低い
★地声の人がいた
★ソプラノとアルトの声を大きくする
★さびの最初が大きすぎて汚くなっている
★最後の音が少し外れていた
ハーモニー ☆ハーモニーが最初のころと比べて良くなった
★男子の声が大きすぎて,バランスが悪い
★ハーモニーが汚い
表現 ☆男子の声がよく聞こえた
☆2度目のメッゾソプラノがよくできている
☆最後のフォルティッシモがよくできていた
☆クレシェンドやデクレシェンドはいいと思った
★ソプラノが時々しか聞こえない
★鼻濁音をもう少しきれいにする
★「今こそ…」のクレシェンド
★出だしがばらばら
★フォルテとフォルティッシモの差があまりついていない
★「今旅立とう〜Let's」のところでずれる
★ソプラノのさびが出にくい
★中間部の「いま…」のピアノができてない
凡例    ☆…『良いと思うところ』    ★…『もう少し工夫すると良いところ』


   生徒がプリントに書き出したものを教師がまとめ,その中から,パートリーダーを中心に特に改善しなければならない部分を選び出させた。「Let' search for Tomorrowの音程が低いとハモれないから,そこをやろうよ!」や「いつもアルトは声が小さくて聞こえないって言われるから,バランスが良くなるようにしようか」など,小間の自分たちに足りないものを補おうという意識を高くもって改善点を選ぶことができた。
 Aやってみよう!
  『もう少し工夫すると良いところ』をどのような練習をしたら直るのか,パートリーダーを中心に今までの経験を基に考えて話し合いをし,練習に取り組ませた。どのような練習をすればよいか分からないパートには,教師からのアドバイスを基に練習に取り組ませた。「声を大きくするためには,どうすればいいのかなぁ?」「口をしっかり開けなきゃいけないよね。耳の下に指を入れて練習してみようよ」「出だしがばらばらなのは指揮を見れば直るかなぁ?指揮者,ちょっと来て」「高い音が出にくいんだけど,殿様ポーズの練習をしてみようよ」など,いろいろと試す姿や他のパートの練習方法を真似る姿が見られ,自分たちでクラスの歌声を良くしようと努力することができた。
 B振り返ろう!
    パートごとに再び録音して,『もう少し工夫すると良いところ』ができるようになっていたかを聴いて,◎,○,△で自己評価した。「しっかり声が出るようになったと思わない?」「そうだね,元気がもらえそうな声だね」「出だしがそろってきたね」「後はピアノにすれば緊張感が出るんじゃないかな」など,自分たちの取り組みが音楽表現を深めることにつながったか確認することができた。できていないことを意識し,自分たちで工夫しながら練習することによって,どのパートの歌声も改善した様子が見られた。

(3) 結果と考察
    生徒達の積極的な取り組みを期待して,パートごとに課題を見つけさせたことにより,自分たちで課題を解決しようという意識が高まり,自分たちの歌声をより良いものにしようと努力する姿が見られた。また,自分たちの歌声を録音したことによって,客観的に自分たちの歌声と向き合うことができた。そして,実践1で学習したことを生かして,自分たちの歌声を自分たちで振り返ることができ,聴いている人に自分たちの気持ちを伝える音楽表現を深める第一歩につながったと考える。


4 研究のまとめ
   大きな声で元気よく楽しそうに歌うことで満足していた生徒たちも,本実践を通して,自分たちの歌声に関心をもち,自分たちの歌声で音楽表現をする上で不十分な点を解決しようとする意識をもって合唱活動に取り組めるようになった。そして,実践2では,自分たちの歌声を聴いたときに,『姿勢に関すること』『強弱に関すること』『発声に関すること』『発音の仕方に関すること』『バランスやハーモニーに関すること』の4項目について,『良いと思うところ』『もう少し工夫するとよいところ』に気付くことができた。これは,実践1で歌うための基本的なことを学習したことにより,どこをポイントに聴けばよいか聴き取る力が見についたからである。
   実践後,合唱コンクールに向けて自主的なクラスでの練習が行われた。ハーモニーの追求をするために歌声がよく響く階段で練習したり,タイミングを合わせるために互いに向き合って練習したりするなど,自分たちで練習を工夫する合唱活動を見ることができた。
   今後も,自分たちの歌声に関心をもち,歌声を通して自分たちの思いを表現できる生徒を育成していきたいと考える。